「一日百本以上の抜け毛は薄毛のサイン」という基準は、広く知られており、多くの方が日々の抜け毛の本数を気にされています。朝の枕やシャワーの排水溝を見て、その本数に一喜一憂している方も少なくないでしょう。しかし、毛髪の専門家から見ると、この「本数」という基準だけで薄毛を判断するのは、極めて危険であり、不正確です。なぜなら、抜け毛の本数は、季節の変わり目やストレス、体調の変化、さらには洗髪の頻度など、様々な要因によって日々大きく変動するものだからです。例えば、秋口には、夏に受けた紫外線のダメージや、動物の毛が生え変わるサイクルの名残で、一時的に抜け毛が増える傾向があります。この一時的な増加を薄毛の始まりだと早合点し、過剰に心配してしまうのは、精神衛生上も良くありません。本当に注目すべき基準は、抜け毛の「量」ではなく、その一本一本の「質」にあります。正常なヘアサイクルを終えて自然に抜け落ちた髪の毛は、毛根部分がマッチ棒の頭のように丸く膨らんでおり、髪自体も太くしっかりとしています。これは、髪が成長期(通常2〜6年)を十分に全うした証拠です。一方で、注意が必要なのは、細く短い、弱々しい抜け毛です。これらの毛は、毛根部分が細く尖っていたり、そもそも毛根自体がなかったりすることがあります。これは、本来であればまだ成長を続けるはずだった髪が、AGA(男性型脱毛症)などの影響で成長期が短縮され、十分に育ちきる前に抜け落ちてしまったことを意味します。もし、あなたの抜け毛の中に、このような質の悪い毛の割合が増えてきていると感じるなら、それは単なる本数の増減よりも、はるかに重要な薄毛の基準と言えます。抜け毛の本数という数字の呪縛から解放され、その質に目を向けること。それこそが、ご自身の髪の状態を正しく理解するための、より精度の高い判断基準となるのです。
抜け毛の本数だけで判断してはいけない理由