鏡を見るたびに不思議でならないのは、一番あってほしい場所である頭の毛が寂しくなっていくのに、あってもなくても構わないような髭や腕の毛が日に日に元気よく育っていることです。この神様のいたずらのような現象こそがAGAの正体であり、私たちの身体に備わったホルモン受容体の複雑な仕組みの現れなのです。一般的に男性ホルモンといえば男らしさを象徴し、活力を与えてくれるポジティブなイメージがありますが、毛髪に関しては二面性を持った厄介な存在となります。頭皮にある毛乳頭細胞は男性ホルモンを受け取ると髪の成長を止めなさいという命令を出し、一方で顔や身体の毛乳頭細胞はもっと成長しなさいという命令を出すのです。このターゲットとなる部位による反応の違いこそがAGA対策を難しくさせる要因の一つとなっています。もし男性ホルモンを完全にゼロにすれば体毛も薄くなり髪も守れるかもしれませんが、それでは男性としての健康や機能を損なってしまうため、私たちはこの微妙なバランスを薬で調整するという綱渡りのような対策を行っているわけです。また、生活習慣の中でこのバランスが崩れる原因も多々あります。例えば、高脂肪な食事や過度なアルコール摂取は皮脂の分泌を増やし頭皮環境を悪化させるだけでなく、間接的にホルモンバランスに影響を及ぼし、体毛の成長を加速させる一方で髪の健康を阻害する可能性があります。筋トレをするとハゲるという俗説がありますが、これは運動によってテストステロンが増えることを懸念した声です。しかし、実際には適度な運動は血行を良くしストレスを解消するため、総合的に見ればAGA対策にはプラスに働くことが多いのです。重要なのは増えたテストステロンがジヒドロテストステロンに変わるプロセスをいかにブロックするかという点にあります。結局のところ、髪は抜けるのに体毛は元気なのは、私たちの遺伝子がそのようにプログラミングされているからであり、そのプログラムを現代の医学というチートツールを使って書き換えるのがAGA治療なのだと解釈すると少し気が楽になるかもしれません。身体の自然な反応に抗うのは根気がいりますが、メカニズムを知れば無駄な不安に駆られることもなくなります。自分の身体の中で起きているこの不思議な矛盾と向き合い、適切なケアを選択していくことで、理想的な毛髪のバランスを取り戻すことは決して不可能ではないのです。
なぜ髪は抜けるのに体毛は元気なのかという素朴な疑問