AGA治療によって、抜け毛が減り、髪の状態が改善してくると、多くの人が「もう薬をやめても大丈夫なのではないか」という考えに至ります。しかし、この自己判断による治療の中断は、ほぼ確実にAGAの進行を再開させ、これまでの努力を水泡に帰す、最も避けるべき行為の一つです。その理由を理解するためには、AGAという疾患の性質と、治療薬の役割を正しく知る必要があります。AGAは、高血圧や糖尿病のような「慢性疾患」と同じで、「完治」という概念がありません。遺伝的な体質とホルモンが原因であるため、その根本原因を体から取り除くことはできないのです。フィナステリドやデュタステリドといったAGA治療薬は、病気を治す薬ではなく、あくまで症状を「コントロール」するための薬です。薬を服用している間は、薄毛の原因であるDHTの生成が抑制され、ヘアサイクルが正常に保たれます。しかし、薬の服用をやめてしまえば、あなたの体は再びDHTを生成し始めます。そして、DHTの血中濃度が治療前のレベルに戻ると、再び毛根への攻撃が始まり、乱れたヘアサイクルへと逆戻りしてしまうのです。その結果、抜け毛は再び増加し、髪は細くなり、薄毛は治療前の状態、あるいはそれ以上に進行していきます。この進行の再開は、服用中止後すぐに現れるわけではありません。通常、3ヶ月から半年ほどかけて、ゆっくりと、しかし確実に元の状態へと戻っていきます。気づいた時には、せっかく取り戻した髪が、また失われていた、ということになりかねません。これは、高血圧の人が、薬で血圧が安定したからといって服用をやめれば、また血圧が上がってしまうのと同じ理屈です。経済的な理由や、副作用への懸念から、治療の中断や減薬を考えたい場合は、絶対に自己判断せず、必ず処方してくれた医師に相談してください。医師は、あなたの状況に合わせて、薬の量を調整したり、他の治療法を提案したりと、最善の策を一緒に考えてくれるはずです。AGA治療は、その進行と一生付き合っていく、長い旅なのです。
AGA治療をやめたら進行は再開するのか