「AGA(男性型脱毛症)を、病院に行かずに、自分の力で治したい」。そう願う気持ちは痛いほど分かります。しかし、残念ながら、この願いを実現するのは、医学的に見てほぼ不可能と言わざるを得ません。なぜ、AGAを自分で治すのがこれほどまでに難しいのか。そこには、AGAという疾患が持つ、決定的な特性があります。その最大の理由は、AGAの根本原因が、私たちの体の内側で起こっている「ホルモンの働き」と、生まれ持った「遺伝的な体質」にあるからです。AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素の働きによって、より強力な脱毛ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)に変換され、このDHTが毛根にある受容体と結合することで発症・進行します。この「DHTの生成」と「受容体の感受性」という二つのプロセスは、生活習慣の改善や、市販の育毛剤、頭皮マッサージといった、体の外側からのアプローチだけでは、決してコントロールすることができません。どんなに健康的な生活を送っても、遺伝的に定められた体内の化学反応を、自分の意志で止めることはできないのです。このホルモンの働きに直接介入し、DHTの生成を抑制する力を持っているのが、医師の処方が必要な「フィナステリド」や「デュタステリド」といったAGA治療薬です。これらは、まさにAGAの根本原因にアプローチするために開発された医薬品であり、セルフケア製品とは一線を画す存在です。また、AGAは「進行性」であるという点も、自分で治すことを困難にしている大きな要因です。何もしなければ、ヘアサイクルの乱れは少しずつ、しかし確実に進行し、毛母細胞は徐々にその活力を失っていきます。自己流のケアで試行錯誤している間に、症状は手遅れに近い状態まで悪化してしまうリスクがあるのです。AGAは、高血圧や糖尿病と同じように、専門家の管理のもとで、適切な薬を用いてコントロールしていくべき慢性的な疾患です。その事実を受け入れることこそが、遠回りのようで、実は最も確実な改善への道なのです。
AGAを自分で治すのが難しい決定的な理由